長編劇場用アニメーション ちびねこトムの大冒険 公式webサイト:キャラクターデザイン・総作画監督 大橋学さん:PART-3

「ちびねこトムの大冒険」の世界 by 長編劇場用アニメーション ちびねこトムの大冒険 公式webサイト

キャラクターデザイン・総作画監督 大橋学さん:PART-3

マンガ描ける人は、監督というか演出ができる人なんだよね。

キャラクターデザイン・総作画監督 大橋学
●このあたりで、改めて大橋さんと中村監督の間柄についてお伺いします。そもそも『ちびねこトムの大冒険』以前から、マッドハウスからスタジオあんなぷるにかけて、多くの作品でご一緒されていたというところまでは存じ上げているのですが…

隆太郎君のことは、とにかく出崎統さんがすごく評価していたんですよ。
何かの関わりがあって…思い出しました。村野守美※1さんのさんのお手伝いをしていた※2とかだったんですよ。

●えっ?! そうだったんですか。

そこから、「お前はアニメ向きだから、マッドハウスに行け」って言われて。そこで出崎さんが目をかけて、これはいいっていうふうに思って…「第2の杉野昭夫※3だ」って言い放ったんだよね。その期待が大き過ぎたというのはあったかもしれませんね。周りの人はみんな知ってたから。
当時、マッドハウスで「星のカフェテラス」っていう会報というか同人誌というかを作ってたんですね。そこでマンガを2ページが4ページか描いてましたけど、ちゃんとしたマンガの原稿でした。だから、アニメーター向きなのかどうかはわからなかったですね。
とにかく最初から絵が描けたから、いわゆる順番通りに動画※4から原画ってステップでやってるかは定かじゃないです。ひょっとしたらやってないかもしれない。

●一気に原画に行っちゃってるかもしれないということですね。

福島(敦子 ※5さんもそうだったけど、最初から描ける人は、緻密に動画なんて描けないですよ。他人の絵をトレスして中割りしてなんてできないんですよ。最初から全体が描けるんだから。そういう人は結構います。だから、順序を飛ばして描いちゃってる可能性が高いんですよ。正確にはやったとしても、1週間くらい動画やったとか、そんな気分だと思う。見たところ、1年動画やってる雰囲気はなかったので。『(立体アニメーション)家なき子』の頃からもう原画やってたから、練習程度に動画やったって感じじゃないですかね。

●とりあえず、原画と動画の理屈を知るというような感じですかね。

そうですね。逆に絵が描けるけど、カメラワークとかタイムシート※6のつけ方とかは見様見真似で、時間かけて覚えていくって感じで。福島さんもそうでしたね。俺もそうでしたけど、いきなり全部は教えてはくれないですから、見様見真似で。動画やってきた経験で、中に何枚って入れていくから、そこは経験が必要なんだけど、絵そのものはね、描けるか描けないかだから。

●以前にベテランのアニメーターの方からもお伺いしたんですが、それぞれの原画マンがタイムシートにつける中割り※4のタイミング1つで画面が違う。アニメーターは、そこに個性がが出るんだと。

タイミングの話…ここでそんな話をしてもいいんですか(笑)。
昔は、失敗はもう常に付きまとう。でもその失敗があるからいいんですよ。それはもう、俺は言いたい。
フィルムができた時にハラハラして観るのが、ちょうど舞台本番を観るみたいな感じ。それを今の人たちはやらないで、監督も失敗がないようにってやるから…驚きがないんですよね、観た時に。

●今は、仕上げに出す前に、事前にソフトを使って観られますからね。

昔の作品を観るとね、動きが急にガタッてなったりして。それが効果的だったりするんですよ。で、それは瞬間的に、今の何だったのって言ってる間にもう次に行ってるから。そのガタッが動き出しの効果になっていたりなんかしてね。
それは失敗なんですけど、失敗も成功って生かしちゃってるんですよ、昔は。それが今は、明らかに失敗は直すから。
だから、恥ずかしいって思いをした方がいいんです、原画の人は。周りの人は気にしないんですけど、自分だけが舞台で失敗しちゃったっていう恥ずかしさを味わって経験していく。自分だって、もう何度も経験してますよ。それを何度も…いや何度もどころか何百回も(笑)。

●それで、アニメーターとしての中村さんが、演出の方にシフトされていくわけですが…。

俺もそうだったんだけど、作業場での引きこもり状態が強くなると、もうアニメ離れというか、原画離れを起こしたりするんですね。それが『スペースコブラ』あたりの頃なんじゃないですかね。杉野さんの表現で言うと「身が入ってない」って。
だから、演出になるまでのプロセスで、原画離れしていったっていう経過があると思うんですね。

●大橋さんから見て、監督・中村隆太郎というか、こういうところが中村監督らしいと感じるところはどういうところですか?

マンガが描ける人は、出崎さんもそうだったんですけど、監督というか演出ができる人なんだよね。アシスタントって言っても、背景だけが得意とかではなくて、全体を構成する能力があった。さっきも話したように、マッドハウスに入った時から、4ページのマンガも描いたりしていたからね。キャラも背景も全部コマの中で描ける人だったから。出崎さんと一緒ですよ。
だから、マンガやるかアニメやるかの選択で迷ったんじゃないですか。

●初めて中村監督の絵コンテを観た時の印象は?

きっちり描き過ぎだよね(笑)。だから、こっち(演出)の方が天職で、合っていたんだと思います。
これは当時本人にも言ったんだけど、描き過ぎるとイメージがコンテにとらわれ過ぎちゃうから、これにプラスして幅を広げるのは難しくなるから、描き過ぎない方がいいと思うよとは言ったけどね。書き過ぎちゃうのは癖ですね。
だから、本番(劇場版)のコンテはそうじゃなく、かなり"描きこまない"ものになっていたと思います。「膨らませられる余地があった方がいいと思うよ」とは言ったので。どうしても、アニメートする創作の部分がカットされちゃうんでね。

ビデオシリーズ当時の絵コンテ ビデオシリーズ当時の絵コンテ
ビデオシリーズ当時の絵コンテ。
表紙には「1988年」と記されている

●このビデオシリーズの絵コンテを拝見してると、電子ブックにして出せるよねっていうくらいに、緻密に書き込まれていますね。

そうですね。劇場版の時には、いろいろなことが同時進行になって忙しくなったので、絵コンテのラフを俺が清書して。そこが替え時なので(笑)、明るく明るく。ボブのコミカルなシーンなんかは特にやりましたね。
とにかく、あの時は、絵コンテ全部ができ上がってはいなかったので、宮崎(駿)さんシステムで、少しずつ絵コンテが決まって、そしたら順繰りで打ち合わせして―っていう感じだったので、ラストシーンはコンテができ上がらないとわからないというスタイルでした。
中盤は随分絵コンテを清書させてもらったけど、後半のアレックスのあたりからはお手伝いしてないから…。

『ちびねこトムの大冒険』はジェットコースター。「あれでいいのだ」(笑)

●9月1日に新文芸坐で※7、20年ぶりに『ちびねこトムの大冒険』が劇場のスクリーンで上映されましたが、久しぶりにああいう環境でご覧になった感想はいかがでしたか?

納得してるのでね。「よし」といつも思いますよ。あそこを直そうとかないですよ。とにかく初号でそういう感じを持っているので。
あとは制作期間のこともあるし。夏から夏の間っていうね。それに、最初から親子映画で制作するってことも決まっていたから、尺(上映時間)も決まっていましたしね。
あそこだけ…ほんの1%程度だけど、クライマックスで地球が修復していくところが、逆再生の兼用になっているでしょ? これは手抜きかなぁってちょっとだけは思います(笑)。でも、コンテの段階で、そうすることがもう決まってましたから。
ファンの方が、Twitterとかで「あそこのところがわかり難い」とかおっしゃるけど、自分にはそういうところは全然ないですね。あれでいいんですよ。バカボンのパパじゃないけど「あれでいいのだ」なんです(笑)。あの作品を観るのは、ちょうどジェットコースターに乗ったみたいなもんだと思うんですね。

●なるほど。ジェットコースターに乗ったみたいに、ついていくとかじゃなくて、体感すればいいんですね。見る人のそれぞれの感じ方だから、目が回っても訳がわからなくなっても当たり前だし、ドキドキして当たり前(笑)。

でも、それに子供はついていけるんですよ。家で子供たちに見せた時は、小学校の4年から6年生くらいが中心でした。中には1年生とかも混じっているんだけど、「これ見るのヤダ」とか言わないんですから。7歳くらいから11歳くらいまでが一緒になって、80分じっと観てたんですよ。


●ちなみにですが、小倉美術監督にも同じようなことをお伺いしたんですが、『ちびねこトムの大冒険』を除いて、あと4本作品を選ぶとしたら何になりますか?

ちびねこを除くと…やはり『あしたのジョー』の2と劇場版。そして『ユンカース・カム・ヒア』『CLOUD』としておこうか。これに『グリム童話 金の鳥』を加えると5本ですね。
そういうふうに歴史というような感じで考えると、『ちびねこトムの大冒険』って分派ですよね。虫プロからマッドハウスっていう流れの分派が、チームとして集まったんですよ。俺も含めて。その流れの兄弟かいとこかって感じだね。外部から沖浦さんとか井上さんとかが入ってきてるけど、中心はマッドハウス出身だから―何だか兄弟みたいな感じですよね。

確かに、(旧)虫プロダクションからマッドハウスが生まれて、マッドハウスで活躍された方々がマッドハウスやトライアングルスタッフを作って――という流れの中に、この『ちびねこトムの大冒険』はありますね。
さて、アトリエCLOUDさんのホームページのフィルモグラフィーを拝見すると、本当にすばらしい作品に携わられてこられていることがよくわかるんですが、そんな中で大橋さんにとって『ちびねこトムの大冒険』はどういう作品ですか?

愛着はありますよ。あり過ぎるから、"パート2"とか言っていたんだし。当時だったら脚本も書けましたね。自分のアイディアがあったから。宇宙版にしようって言ったのは自分ですから。中村監督はもうニコニコして聞いてるだけ。「そういうふうにできたらいいですね」っていう感じで。そこで、誰かプロデューサー的な人が「よし!やろう」とか言っていたら、すぐストーリーボードを書き始めて…っていう雰囲気ですよ。
もうノリノリの悪ノリでパート2がそのままできちゃうような意気込みだったのが、その後の経過としてその思いをしぼませちゃうような感じになったので、こうして資料を取っておいたんですね。

●ちなみに、他にそういう作品ってありましたか?

ないですよ(笑)。あ、『CLOUD』は別ですけど(笑)。だからね、愛着度は大きいですよ。キャラクター展開のプランもあったし、世に出ればいろいろな発展性があったと思うんですよね。"学習ちびねこノート"とかね(笑)。
希望的には、とにかく『ちびねこトムの大冒険』は何かにはなってほしい。草の根の上映会でもいいんですけど、それを何回かやったら最終的にはDVDとかになってほしいですね。
とにかく「続き」があるんだって。普段はね、携わった作品の資料とかは大体処分しちゃうんですけど、『ちびねこトムの大冒険』だけはこうしてファイルに取っておいたのは、パート2がある予定だったからなんですよ。


インタビューを終えて…

当日は、小春日和の暖かく穏やかな日でした。
大橋作画監督のご自宅で、いろいろなお話を楽しくお伺いしているうちに、気がつけば外はすっかり暗くなっていました。

『ちびねこトムの大冒険』公式サイトのインタビュー取材ということで、基本的には本作品に関わることを中心とする記事となりましたが、1つ何かをお伺いすると、そこからいくつものお話が飛び出してくる…
実際には、"ちびねこ"以外にも、『ガンバの冒険』や『カムイの剣』、『宝島』、そして『たまゆら』まで、本当にいろいろな作品のお話も書ききれないくらいにお伺いでき、本当に幸せなひと時でした。
こちらの未熟な質問にもなっていないような問いかけにも、終始穏やかにお答え下さった大橋作画監督、本当にありがとうございました!

※1 漫画家・アニメ監督。2011年没。抒情あふれる作風で多くのファンから愛された。また、虫プロダクション所属時代には『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』などでアニメーターとしても活躍。その後も、大橋作画監督が原画で参加した『カムイの剣』ではキャラクターデザインを担当するなど、数々のアニメ作品にも携わる。監督作品『小川のメダカ』は、東京国際アニメフェア2003にて、東京アニメアワード(公募作品部門)のアニメ作品部門で優秀作品賞を受賞した。

※2 中村監督によると、「友人が村野氏のアシスタントをしていて、そのつてを頼って、たまたまサインをもらいに行った時が入稿前の忙しい時で、少しの間手伝いをさせてもらった。その時に絵を観てもらったら、村野氏からマッドハウスに行くように勧められた」とのこと。このあたりの経緯は、近日予定の中村監督へのインタビューで改めてお伺いしますので、乞うご期待。

※3 アニメーター・アニメ監督。1964年に虫プロダクションに入社以来、数々の作品で卓越した画力を発揮し続けている。中でも、出崎統監督とコンビを組んでキャラクターデザイン・作画監督に携わった作品群は、数多くのファンから愛され、後進のアニメクリエイターに大きな影響を与えた。「出崎・杉野コンビ」は、日本アニメ史上屈指の黄金コンビとして知られ、その多くの作品で原画を務めた大橋作画監督は、Webアニメスタイルの「アニメの作画を語ろう animator interview 大橋学(3)」(http://www.style.fm/as/01_talk/ohashi03.shtml)で、「出崎・杉野コンビっていうのは、相思相愛なんですよ。だから――第3の人は要らないんです(笑)。」と語っている。

※4 アニメの作画は、大きく「原画」と「動画」とに作業工程が分かれている。ある一連の動きがあるとした場合、原画を担当するアニメーター(「原画マン」とも 呼ばれる)は、その動きのキーポイントとなる絵(これが「原画」)を描く。その原画と原画の間をつなぐ絵が「動画」(または「中割り」)と呼ばれる。通常 の場合、アニメーターの新人のほとんどは動画マンとして動画を担当し、そこで経験を積んで原画マンへとステップアップしていく。

※5 アニメーター、イラストレーター、キャラクターデザイナー、アニメーション監督。中村監督や大橋作画監督と同じくマッドハウス〜スタジオあんなぷるで、 『グリム童話 金の鳥』『あしたのジョー2』『スペースコブラ』などの作品でアニメーターとして活躍。『ポポロクロイス物語』シリーズのキャラクターデザイナーや、イラストレーターとしての活動も知られている。

※6 カメラワーク、セルワーク、タイミング、特殊効果などを記入する指示書。アニメの場合は原画マンが書く。最終的には、これが撮影の指示書にもなる。

※7 「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol. 30 『ユンカース・カム・ヒア』と大橋学のアニメーション」。
詳しくは、「お知らせ」の「『ちびねこトムの大冒険』がスクリーンに帰ってきた日」参照
http://chibinekotom.com/news/2.html

キャラクターデザイン・総作画監督 大橋学さん:PART-2
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