長編劇場用アニメーション ちびねこトムの大冒険 公式webサイト:キャラクターデザイン・総作画監督 大橋学さん:PART-2

「ちびねこトムの大冒険」の世界 by 長編劇場用アニメーション ちびねこトムの大冒険 公式webサイト

キャラクターデザイン・総作画監督 大橋学さん:PART-2

マイケルとアレックスは、俺が描く絵は違うっていうイメージを持ってるんだよ

最終的に森本君たちがいなくなり、飯野さんも途中から離れちゃって、残ったのは意見を言わない人が多かったから、そこからは俺と隆太郎君との綱引きみたいなのが当然ながらあって。
今思い出したんだけど―アレックスっていうのはね、隆太郎君の分身みたいな感じがあるんですよ。でね、個人的にはね、アレックス嫌いなんです(笑)。真面目くさって。
それで、もしこっちが何も意見を言わなかったとしたら、放っとくとアレックスの存在がもっとバーっと出てくるニュアンスがあったんですよ。で、何となく暗い画面にしたくなかったので、監督との間で綱引きみたいな駆け引きはありました。明るく明るくしたかったんですよね。とにかく放っておくと暗くなる、暗くなるっていうのがあったんで。

●放っておくと暗くなる(笑)

それはもう、キャラクターです。中村監督のキャラクターだから。アイギプトのピラミッドの中のシーンとかでも、ディスカッションみたいな会話とかしてるし。

●あの対話のシーンは作品の中でもちょっと異質なんですよね。妙に哲学的というか…。

そう。あれはもう監督自身ですよ。アレックスは。
アレックスはあれ以上真面目にはできないよって。こういう渦巻き眼鏡の学者風にしたかったんだもん。
で、原画を描いた人が中村監督のイメージに近いアレックスにしたようなんで、またこちらのイメージに引っ張って、引力関係で引っ張り合ったって感じで。原画描いた人は、地味な芝居がやれるから上手な人なんだけど堅い。だから、画面上はちょっと堅いアレックスになってると思います。原画の影響ですね。

●監督が「アレックスはレオニスで、レオニスはアレックスだ」っていうようなことを、以前におっしゃってらしたと伺ってます。やはりこだわりがあったみたいですね。

あったですね、ものすごく。
ビデオシリーズでは、キャラクターの注文が一番多かったのはアレックスなんですよ。「違う、違う」ってダメ出しが一番多かった。

最初は、『ガンバの冒険』※1のガクシャみたいな感じにしたんですよ。アレックスはあれっていうふうに決め込んでいたんで。眼鏡も渦巻きメガネで。だけど違うと(笑)。本当に真面目に真面目に持っていこうとするから、アレックスは監督の分身なんだなぁって。

まだ監督の中では、アレックスのイメージは違う感じがあるかもしれない。
結局のところ、終着点があれになったんだよね。だから、納得はしてないかもしれない。アレックスはもっと違うっていうふうに思ってるかもしれない。
マークとかトムとかは、あそこまではこだわってなかったんだけど…。

マイケルもねぇ、難航したんですよ。とにかく中村監督が「大橋さんのは、悪い顔の絵を描いても、いい顔になっちゃうから」ってんで、すごく悪くするキャラにするのにちょっと苦労したんです。まだ気に入らないみたいですよ(笑)。
要するに憎たらしいキャラにしたかったんだけど、俺のは憎くならないんだって。でも、努力してここまできて。
で、先輩の俺を差し置いて、周りのスタッフに聞いて回ってんだよ(笑)。「これ、どう思う?」ってのをさぁ、動画検査の大谷(久美子)さんとか彩色設定の片山(由美子)さんとかに。
それでみんなが「いい」って言って納得した(笑)。失礼な話だよねぇ(笑)。
だから、このマイケルとアレックスは、俺が描く絵は違うっていうイメージを持ってるんだよ。

初期デザイン アレックスの初期デザイン アレックスの本編デザイン
▲アレックスの初期デザインと本編のデザイン 

マイケルの初期デザイン マイケルの本編デザイン
▲マイケルの初期デザインと本編のデザイン

やりたいことが合致してると思うんですよ。頼む方もやる方も。

●原画の担当カットをそれぞれに割り振られたのは、監督と制作の浅利さんだったんですか?

そうだと思います。特に浅利さんはそのあたりが理解できる人で、絵コンテから(作画)枚数が把握できるって言ってましたから。

ただ、全パートが初めから決まっていたってわけじゃなくて、コンテができるごとに順繰りに決まっていったから、最初から入っていた人たち―東海林さんとかは、自分がやりたいっていうところを決めていった。それから、ご夫婦でやってらした…入好(さとる)さんや新岡(浩美)さんあたりも自分で選んでいるんじゃないかと思います。
二木(真希子)さんとかみたいに外注した人は選べないので、誰かが「あの人に頼もう」っていうことだったんだと思う。二木さんがここやりたいって言ったかどうかはわからないですね。

ただ、外の人でも、初めの頃に声をかけた人たちはまだ選べる段階だったから、自分で選んでると思うんですよ。スタジオジュニオの鈴木(欽一郎)さんとか井上(俊之)さん、それと沖浦(啓之)さんあたりは。そのあたりがまだ選べる時期だから、お互いにやりたいことが合致してると思うんですよ。頼む方もやる方も。
だけど、ネオグルトの新井(浩一)さんの後のアイギプトあたりから最後の方は選べないような状況だったと思います。猫魔団のアジトあたりについては、阿部(恒)さんは最初から入っていたから、早めに作業に入ってました。

●沖浦さんが地球内部のシーンを担当されたのは、Webアニメスタイルのインタビュー(http://www.style.fm/as/01_talk/okiura03.shtml)などで知られていますが、井上さんはどのシーンを担当されたんですか?

鳥です。風の塔のシーン全編の、ほぼ初めから終わりまでじゃないですか。おばさん達が洗濯してるカットとか、最期に塔から飛び立っていく所とかは原画枚数がすごいんです。
井上さんは、イメージを小さく描いたものを、レイアウトでそっくり描いてきたんでビックリしちゃって。線までそっくりなんで、自分で「あれ?これ俺描いたかな?」って。完璧にそっくりでしたね、描き方がね。
そうそう、この1枚だけでやってくれたんですよ、原画1カット。

大橋作画監督曰く「この1枚」 大橋作画監督「この1枚」のシーン
▲大橋作画監督曰く「この1枚」と、そのシーン

このカット239。おばさんたちが洗濯してるシーン限定で描いたものですね。
井上さんのエピソードをもう少し話すとね、とにかく修正されるのが大嫌いなんだって聞いてたんですね。まぁ、誰でもそうなんだけど。で、99%は修正入れてないんですよ。でも、そのわずかな1%が気になるみたいで。
これは制作の人から聞いたんですけど、ちょっとしたニュアンスで修正を入れたんですよね。そしたらね、それと自分のを見比べて「どこが違うんだ!? この修正と俺の原画とどこが違うの?」って言ってたそうです。だから、そんなに…ちょこっと直しただけなんだから、そんなにこだわらないでって思ったけど、本人はすごいこだわったって。
100%を目指しているから―完璧を。本当にね、直したっていうほどじゃないんですよ、止め絵のところでちょっとしたニュアンスで変えただけで。だから、99.9%直してませんよって。これは書いてもいいです(笑)。

●でも、その0.1%がってことですね(笑)。すごいなぁ。

だから、井上さんはすごいと思うし、沖浦さんはまた質が違う意味ですごくて、それぞれが最適な場所で最適な原画を描いてくれた。
沖浦さんは地球の内部を担当されてましたけど、チキの妖怪変化のあのへんはアドリブですよ。それがその後のチキの妖怪変化の元になってる場合が多いですね。沖浦さんが最初にあれを書いてるから。

●そういえば、ローラも、表情が途中から少しずつ変わっていくイメージがあるんですけど。

南の海のクジラのドーンのあたりは二木さんですね。クジラの上に乗ってるあたりはアップサイズが多かったでしょ。その時の二木さんの絵に引きずられていったというか、女性が描く特有の良さに引っ張られたんだと思う。そういうふうに、最初に描いた人のイメージに後の人が引っ張られるというのはありますね。

鈴木さんは、北の平原のボブのコミカルなシーン。新井さんはネオグルト。あと、入好さんも「スタジオに入って作業した方がわかりやすい」ということで、スタジオに入ってやってくれていました。
ただ、そういうシーンとシーンの繋ぎのところがどなたかだったかまでは、本当に申し訳ないんですけど、定かに覚えていないんですよ。クライマックスのあたりも、どなただったか…。

●こちらのファイルには、アイギプトのシーンのレイアウトがたくさんあるようですが、このあたりは大橋さんがレイアウトされたんですか?

アイギプトのシーンは、背景(美術)さん達が困らないように、かなり描きましたよ。作りながらやるって感じだったので。このシーンのあたりから、原画の担当者が入り混じって、誰がどのカットをやってるのかわからないような感じになっていたから、レイアウトは原画の人っていうよりも、自分で描いちゃってますね。

●普通は、レイアウトは原画の方が描くんですよね。

でも、あまりにも負担が多いので、このあたりは自分で描いちゃってるんです。

大橋作画監督によるレイアウト 大橋作画監督によるレイアウトの実画面
大橋作画監督によるレイアウト 大橋作画監督レイアウトの実画面
▲大橋作画監督によるレイアウト(左)と、実際の画面(右)

これも、そのまま小倉(宏昌・美術監督)さんに描いてもらった。眼だけがひび割れて動くカット。この絵をこのまんま描いてもらったんです。眼だけが動くので、これは原形としてそのまま使ってもらわないと、って感じで。目の動きは、背景とセルとの組み合わせで。
自分が原画描くと、今の人は、ここの線はどうなってるのってところをきっちりと描くけど、このくらいの描き方だと速いので、俺なんかこういう描き方になっちゃう。今はむしろ新鮮かもね。こういう線が太いのはね。こういうふうには描かないから。とにかく動画もこういう感じでやってもらったんで。

●小倉さんも同じようなことをおっしゃってましたね。今のアニメーターの線だと、いわゆる80年代の出崎統監督※2作品風なハーモニーはできないって。

そうですね。これなんかはこのロウソクのあたりはBOOK※3なんですけど、小倉さんがどういうふうに描いてもいいように、正確には描かないんですよね。ここに火があってもBOOKだから、くっ付いても離れても問題はないので、そんなに正確には描かないんですよね。後は美術さんにお任せしますと。

●このレオニスは、原画の修正ですか?

大橋作画監督によるイメージ画 大橋作画監督による原画の修正(コピー)。イメージ画の左下にご注目。
▲大橋作画監督によるイメージ画(左)と、原画の修正(右 コピー)。イメージ画の左下にご注目。
(クリックして拡大表示にてご覧ください)

えーっと…修正っていうよりも原画みたいになっちゃってるなぁ。どうも"力石"のイメージで描いてくれないので(笑)。
レオニスが出てくるカットが順繰りで止め絵でパッパッと出てくるんだけど、原画の方が描いてくれてるんだけど、止め絵なので一応修正にはバッチリ入って(笑)、進めながらレオニスを作っていくという感じでした。
その前からキャラクター表は一応できてはいたので、風の塔の壁画とかピラミッドの中の心象風景でイラスト的に出てくるのは、そのキャラ表とか最初のイメージなんですけど、このあたりからのレオニスのイメージは”作りながら”でしたね。

●この絵は…なるほど! こうして見ると、確かにこれは力石だ…。あ、ここに「実は力石だった」って書いてありますね(笑)。
ところで、クライマックスで、みんなが帽子の上で「つながれ。つながれ」と祈る印象的な止め絵のカットがあるんですけど、あれは誰が描かれたんですか?

あそこは…クロエを描いた人ですね。思いだしてきたぞ…水村(良男)さんだ。作画監督補佐の。
まだそういう役職を決めてない頃にね、原画がよかったんで。違和感もなくて。俺も好きだったんだ、水村さんの絵は。あ、いい感じだなぁって。この人は作画監督できるなって思ったんで、俺から頼んだんです。で、監督の異存もなしでそうしようって。
1枚絵とか、人数が多い所とかやはり難しいところを水村さんがやってる。キャラが多いのが動くのって大変なんですよね。あと、クライマックスの涙目になってるところのウルウル感も水村さんですね。

帽子の上で「つながれ。つながれ」と祈る止め絵 帽子の上で「つながれ。つながれ」と祈る止め絵

※1 1975年の出崎統監督作品。原作は斉藤惇夫の『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』。大橋作画監督は原画で参加した。

※2 アニメーション監督・演出家。2011年没。『エースをねらえ!』『ガンバの冒険』『立体アニメーション 家なき子』『宝島』『ベルサイユのばら』(TVシリーズ19話〜最終話)『あしたのジョー2』『おにいさまへ』『劇場版AIR』など、数多くのテレビシリーズ、劇場用映画、OVA作品を監督。止め絵やハーモニーに代表される独特の映像表現と濃密でありながらロマンチシズムに満ちたドラマ演出は、多くのアニメクリエイターへはもちろん、その後のアニメーション表現にも多大な影響を与えた。
1980年、マッドハウスを離れ、杉野昭夫氏(VOL.3 ※3参照)と共にスタジオあんなぷるを設立。同社には、アニメーターとして、中村監督や大橋作画監督を始め、森本晃司氏(vol.1 ※3参照)、福島敦子氏(Vol.3 ※5参照)、現在ではスタジオジブリ作品で知られる大塚伸治氏や近藤勝也氏らが、また演出家として竹内啓雄氏や大賀俊二氏らが在籍していたことでも知られる。

※3 切り取った背景やセルに描かれた背景。部屋の中のテーブルや草むらなど、キャラクターの「手前に来る風景」を、キャラクターの手前のセルに重ねるために描かれる。

 

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